ねじは、機械要素の中で重要な部品ですが、その特性上、締付応力や使用応力が降伏点以下で使用されることが多いです。しかし、ねじの破損の多くは疲労破損に起因します。以下に、ねじの理論許容応力と疲労安全率について詳しく解説します。
1. ねじの疲労破損の原因
ねじは、締付応力や使用応力が降伏点以下で使用される場合が多く、その破損のほとんどが疲労破損となります。
ねじの使用条件と疲労破損のリスク
ねじは、機械設計において締結部品として広く使用される重要な要素です。その強度と信頼性を確保するためには、使用条件や破損のメカニズムを正しく理解する必要があります。
1. ねじの使用応力の範囲
- 降伏点以下での使用
- ねじは通常、締付応力や使用中にかかる応力が材料の降伏点以下になるよう設計されます。
- 降伏点を超える応力を受けると、塑性変形が発生し、ねじの締結力が失われるリスクがあるためです。
2. 疲労破損が主な破損要因
- 疲労破損の特徴
- ねじにかかる繰り返し応力や振動により、材料内部に微小な亀裂が発生し、これが進展して最終的に破断に至る破損形式です。
- 特に、荷重が動的である場合や長期間にわたって繰り返し荷重を受ける場合、疲労破損が発生する可能性が高まります。
- 疲労破損の主な原因
- 応力集中:ねじ山や座面での局所的な応力集中が疲労破損の引き金になります。
- 不適切な締付トルク:締付トルクが不足していると動的荷重が直接ねじにかかり、過剰な場合は材料の内部応力が増大します。
- 表面状態:表面の粗さや傷が疲労破損を促進する場合があります。
3. 疲労破損を防ぐための対策
- 適切な設計
- 応力集中を避けるため、ねじ山の形状や座面の設計を最適化します。
- 降伏点以下で十分な安全率を確保するように設計します。
- 締付トルクの管理
- 規定の締付トルクを遵守し、過剰または不足を防ぎます。
- トルクレンチを使用して締付作業を正確に行います。
- 表面処理の活用
- ショットピーニングや窒化処理などで表面を硬化させ、疲労強度を向上させます。
- 防錆処理を施して腐食による疲労破損を防ぎます。
- 定期的な点検
- 長期間使用されるねじについては、定期的な検査を行い、亀裂や変形の有無を確認します。
4. まとめ
ねじの破損の多くは疲労破損に起因するため、締付応力や使用応力を降伏点以下に抑える設計が重要です。また、応力集中の低減や締付トルクの適切な管理、表面処理の活用によって、疲労破損を防ぎ、ねじの信頼性を向上させることができます。
2. ねじが締まっている場合の許容応力
1) ねじ締付時の応力振幅
全振幅σzは、応力振幅σwk×2に等しく、計算荷重応力σに内外力比Φfを掛けた値です。
内外力比Φfは、ボルト締付時に荷重がかかった場合にボルトに付加される荷重比です。内外力比は、締付物の材質や形状によって変わりますが、材質が鋼の場合は最大0.33、鋳物の場合は最大0.47となります。
例: 内外力比Φf = 0.33 (鋼)
全振幅σzは、ボルトの疲労限度σbwk×2より小さくなければなりません。
2) 例: M12 ボルトの最大計算荷重応力σmax 及び疲労安全率S1
締付物が鋼の場合、ボルトが締まっている場合の許容応力σal=14kgf/mm²
全振幅σz<6.7×2=13.4kgf/mm²(互省のカタログ P50を参照)
理論許容応力σmax=全振幅σz/内外力比Φf=13.4/0.33=40.6kgf/mm²
疲労安全率S1=最大計算荷重応力σmax/設計許容応力σal=40.6/14=2.9
※ねじは、多数個使用する場合がほとんどで、締付力のバラツキ(±20%程度)があるため、均一な応力にならず、内外力比Φfの不確実さ、曲げ応力が付加される場合もあり、安全率は2.5程度が必要です(実績値)。
参考: 引張強さとの安全率(引張強さσβ=124kgf/mm²)
引張強さとの安全率S11=124/14=8.86
3. ねじが緩んだ場合の許容応力
1) ねじが緩んだ時の応力振幅
全振幅σzは、最大計算荷重応力σmaxがボルトの疲労限度σbwk×2より小さくなるように設計します。
2) 例: M12 ボルトの最大計算荷重応力σmax 及び疲労安全率S2(締付物が鋼の場合)
ボルトが緩んでいる場合の許容応力σal=7.1kgf/mm²
理論許容応力(全振幅)σz=最大計算荷重応力σmax<6.7×2=13.4kgf/mm²
疲労安全率S2=最大計算荷重応力σmax/設計許容応力σal=13.4/7.1=1.89
※ねじは、多数個使用する場合がほとんどで、ねじが緩むと均一な応力にならず、部分的に大きな応力がかかるため、疲労安全率は1.5程度が必要です(実績値)。
参考: 引張強さとの安全率(引張強さσβ=124kgf/mm²)
引張強さとの安全率S22=124/7.1=17.5
参考事項
- ねじの締付応力=降伏点の約60%
- 締付トルク・締付力は±15%程度のバラツキがあります。
ねじ部の理論許容応力と疲労安全率は、機械設計において非常に重要です。適切な設計と管理を行うことで、ねじ部の信頼性と耐久性を向上させることができます。製造現場では、これらの基準を遵守し、品質管理を徹底することが求められます。
六角穴付きボルト・六角ボルトの一般許容応力の目安
はじめに
ねじ部品は、ねじ溝によるきり欠きが大きく、機械要素の中で最も破損しやすい部品の1つです。応力振幅を小さくするためには、緩まないようにしっかりと締め付けることが重要です。しかし、ボルトの使用場所には締めにくい部分もあり、この場合は応力振幅が大きくなるため、許容応力を小さくする必要があります。完全締付と不完全締付では許容応力を変えることが求められます。
六角穴付ボルトの一般許容応力(強度区分:10.9、12.9)
許容応力の目安は以下の通りです:
呼び径 | 完全締付状態(締め易い場所) | 不完全締付状態(締めにくい場所) | ゆるんだ状態(ゆるむ状況の場所) |
---|---|---|---|
M4~M20 | 1400 kgf/cm² | 1020 kgf/cm² | 710 kgf/cm² |
M24~M33 | 1200 kgf/cm² | 870 kgf/cm² | 610 kgf/cm² |
M36~M52 | 1150 kgf/cm² | 820 kgf/cm² | 570 kgf/cm² |
六角ボルトの一般許容応力(強度区分:4.8)
許容応力の目安は以下の通りです:
呼び径 | 完全締付状態(締め易い場所) | 不完全締付状態(締めにくい場所) | ゆるんだ状態(ゆるむ状況の場所) |
---|---|---|---|
M4~M20 | 700 kgf/cm² | 610 kgf/cm² | 500 kgf/cm² |
M24~M33 | 600 kgf/cm² | 520 kgf/cm² | 430 kgf/cm² |
M36~M52 | 580 kgf/cm² | 490 kgf/cm² | 400 kgf/cm² |
(≒SB0.5, ≒SB0.6, ≒SB*0.7)
まとめ
適切な締付を行うことで、ボルトの許容応力を確保し、機械部品の破損を防ぐことができます。ボルトの使用場所や締付のしやすさに応じて、許容応力を調整することが大切です。
ボルト強度計算に使用する直径と断面積の正しい考え方
ボルトの強度計算において、直径と断面積の考え方および計算方法は非常に重要です。以下では、ボルトの強度計算に使用される直径と断面積について詳しく説明します。
1. 有効断面積
有効断面積は、ねじの有効径と谷底径の中間径における断面積であり、実際の破断面積に最も近いと言われています。ソケットボルトの強度計算によく使用されます。
2. ねじ外径からねじピッチをマイナスした断面積
この断面積は、強度断面積と呼ばれ、有効断面積と谷径断面積のほぼ中間値です。計算を簡素化した方法であり、タイバーの強度計算によく使用されます。有効断面積に比べて小さく、より安全な考え方です。
3. 谷径断面積
谷径断面積は、ねじの谷径における断面積であり、上記の2つの方法よりも断面積が小さく、応力が高くなります。このため、より安全な考え方ですが、あまり使用されません。
4. 谷底径断面積
谷底径断面積は、ねじの谷底径における断面積で、4種類の中で最も断面積が小さく、応力が一番高くなります。より安全な考え方ですが、あまり使用されません。
これらの計算方法は、ボルトの強度計算において適切な直径と断面積を選定するための基準となります。適切な計算を行うことで、ボルトの強度を確保し、機械構造の安全性を向上させることができます。
ボルトの強度計算に使用する直径と断面積の考え方および計算方法について、適切に理解し使用することは、機械設計において非常に重要です。これにより、強度と安全性を確保することができます。
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