機械加工と公差:品質とコストを左右する要素
製品の信頼性や性能は、その部品一つひとつの精度によって大きく左右されます。この精度を担保するために欠かせないのが、機械加工と公差の管理です。例えば、自動車のエンジン部品や航空機の部品では、わずかな寸法の誤差が重大なトラブルを引き起こす可能性があります。一方で、厳しすぎる公差を設定すると、加工の難易度やコストが増大し、製品全体の競争力を損なうことにもつながります。そのため、適切なバランスを取ることが非常に重要です。
機械加工の現場では、いかに公差を適切に設定し、効率よく管理するかが、設計者や加工技術者にとって大きな課題です。本記事では、機械加工と公差の基本から、実際の現場での活用例、公差管理における課題とその解決策までを分かりやすく解説します。この記事を通じて、公差管理の重要性と、加工現場での具体的な工夫について深く理解していただければ幸いです。専門知識がなくても楽しんで読める内容を心がけました。
機械加工と公差の基本
機械加工と公差の基本を理解する重要性
機械設計では、設計した部品が実際に製造可能であり、設計意図通りの性能を発揮できるようにすることが求められます。そのためには、機械加工の基礎と公差の設定についての理解が不可欠です。
1. 機械加工の基本を知る必要性
- 加工方法と制約の理解
各種の加工方法(切削、研削、放電加工、3Dプリントなど)には、可能な形状や精度、加工コストに制約があります。設計段階でこれらを考慮しないと、製造が困難または不可能になる場合があります。- 例:小さすぎる穴径や急激な形状変化は、加工工具の制約を超える可能性があります。
- 加工精度とコストのバランス
高い加工精度を要求すると製造コストが上昇します。製造の現場に適した加工レベルを選定することで、性能とコストのバランスを最適化できます。 - 部品の加工性を考慮した設計
加工工程を意識した設計(DFM: Design for Manufacturability)により、部品の加工効率が向上し、生産時間やコストを削減できます。
2. 公差の基本を知る必要性
- 公差とは
公差は、部品の寸法が設計値からどの程度の許容範囲で外れても問題ないかを示す数値です。これにより、製造された部品が機能的に問題なく組み立てられることを保証します。 - 公差の適切な設定が必要な理由
- 組み立ての確実性
適切な公差設定により、複数の部品がスムーズに組み立てられるようになります。 - 性能の安定性
公差が厳しすぎる場合、加工が困難になりコストが増加します。逆に緩すぎると、部品間のクリアランスが増え、性能や耐久性に悪影響を及ぼします。 - コスト削減
必要な部分だけに厳しい公差を適用することで、コストを抑えながら設計意図を実現します。
- 組み立ての確実性
- 公差の種類
- 寸法公差: 長さ、幅、直径などの寸法の許容範囲を示す。
- 幾何公差: 形状、位置、姿勢の精度(例:平行度、直角度、真円度など)を指定する。
3. 設計と製造の橋渡し
- 機械加工の制約や公差の影響を理解することで、設計者は製造現場とスムーズに連携できます。
- 製造現場の意見を反映した設計(協調設計)により、無駄を減らし、製品の品質を向上させます。
4. 実務におけるメリット
- 設計の現実性向上
実際に製造可能な部品を設計することで、設計変更や不良率を低減できます。 - 組立効率の向上
公差を適切に設定することで、部品間の適合性が向上し、組立作業の手間を削減できます。 - トラブル回避
機械加工と公差の知識があることで、製造時の誤差や組立不良によるトラブルを未然に防ぐことができます。
機械加工と公差の基本を理解し、適切に活用することは、設計の効率化、製造コストの削減、製品の信頼性向上につながります。この知識は、設計者としての基礎力を高め、より高品質な製品を生み出すための重要な要素です。
- 機械加工とは?
機械加工は、素材を削ったり、切断したり、成形したりして、特定の形状や寸法を持つ部品を製作するプロセスです。旋盤加工、フライス加工、研削加工、CNC加工など、さまざまな加工方法があります。 - 公差とは?
公差は、部品の製造において許容される寸法の誤差範囲を意味します。たとえば、直径10mm ±0.1mmの公差は、部品の直径が9.9mmから10.1mmの間であれば許容されることを示します。
公差の種類と重要性
公差の種類とその重要性
公差とは、設計された寸法が製造時に許容される範囲を示すものであり、部品の製造精度や機能を保証するための重要な指標です。適切な公差を設定することで、部品の組み立て性や性能、コスト効率が向上します。
1. 公差の種類
(1) 寸法公差
- 定義: 部品の長さ、幅、直径などの寸法が許容される範囲を示します。
- 目的: 部品間の適合性を確保し、スムーズな組み立てを可能にします。
- 例:
- 直径が10±0.1mmの場合、許容される範囲は9.9~10.1mm。
(2) 幾何公差
- 定義: 部品の形状、姿勢、位置の精度を指定します。
- 目的: 部品の性能や組立精度を保証します。
- 主要な幾何公差の種類:
- 形状公差:
- 平面度、真円度、直線度など、部品の形状そのものを規定。
- 姿勢公差:
- 平行度、直角度、傾斜度など、部品の方向を規定。
- 位置公差:
- 真位置度、同軸度、対称度など、部品の配置精度を規定。
- 振れ公差:
- 全振れ、円振れなど、回転部品の振れ精度を規定。
- 形状公差:
(3) 交差(フィット)公差
- 定義: 軸と穴の嵌合(フィット)に関する許容範囲を指定します。
- 種類:
- すきまばめ: 軸と穴の間に隙間がある嵌合。
- 圧入ばめ: 軸が穴に押し込まれる嵌合。
- 中間ばめ: すきまばめと圧入ばめの中間。
(4) 表面粗さ
- 定義: 部品の表面仕上げの滑らかさを規定します。
- 目的: 接触部の摩擦や摩耗を低減し、製品の寿命を延ばします。
2. 公差の重要性
(1) 機能の確保
- 部品間の適切な適合性を維持し、製品の性能や信頼性を保証します。
- 例:ギアのかみ合わせやベアリングの回転精度。
(2) 製造効率の向上
- 製造可能な範囲で公差を設定することで、不良率を低減し、生産性を向上させます。
(3) コストの最適化
- 公差が厳しいほど加工精度が求められ、製造コストが上昇します。適切な公差を設定することで、コストと性能のバランスを取ることが可能です。
(4) 組立性の向上
- 公差によって部品が互いにスムーズに適合するため、組立作業が効率的に進み、手間を削減できます。
(5) 品質の一貫性
- 公差の管理により、製品間のばらつきを抑え、一貫した品質を維持できます。
3. 適切な公差設定のポイント
- 必要最低限の精度を指定し、過剰な公差を避ける。
- 重要な部分にのみ厳しい公差を設定し、非重要部分には緩やかな公差を設定する。
- 設計段階で公差と加工可能性を考慮し、製造現場と連携して決定する。
公差は、機械設計と製造を結びつける重要な要素です。適切な公差を設定することで、製品の性能、信頼性、コスト効率を高め、設計と製造の成功を実現することが可能です。
- 寸法公差
部品の長さ、幅、高さ、直径などの寸法の許容範囲を指定します。 - 幾何公差
部品の形状や位置関係を規定するもので、真円度、平行度、垂直度などがあります。 - 重要性
- 部品の互換性: 公差が適切でないと、部品が正しく組み立てられない可能性があります。
- 性能の確保: 公差が厳しすぎるとコストが上がりますが、緩すぎると製品の性能が低下する可能性があります。
- コスト管理: 公差の選定は加工コストにも影響するため、適切な設定が重要です。
基本公差とは?
基本公差は、全ての機械加工において基準となる公差のことを指します。
基本公差を理解する重要性
機械設計において、基本公差を理解し適切に設定することは、部品の製造性や性能を確保し、コスト効率の高い設計を実現するために欠かせません。基本公差は、寸法や形状、位置の許容範囲を管理するための基盤であり、製造から組立、製品の信頼性に至るまで幅広い影響を与えます。
1. 基本公差とは
- 定義: 基本公差は、部品の寸法や形状において、製造時に許容される誤差の範囲を示す値です。
- JIS規格: JIS B0401やISO規格に基づいて定義される寸法許容差の基準値。
- H7、g6などの記号で表され、寸法や嵌合の管理に使用されます。
2. 基本公差を知ることの重要性
(1) 製造可能性の向上
- 基本公差を理解することで、設計が製造現場で実現可能なものかどうかを判断できます。
- 過度に厳しい公差設定は加工コストを高騰させる一方、緩すぎる公差は部品の適合性を損なう恐れがあります。
(2) 部品の互換性確保
- 部品間の適合性を保証し、組立や動作に問題が生じないようにします。
- 例:シャフトと穴の嵌合がスムーズに行えるよう、公差を適切に設定。
(3) コストと性能のバランス
- 公差の厳しさに応じて加工の難易度が変わり、コストにも影響します。
- 必要な箇所にのみ厳しい公差を設定することで、コスト削減と性能確保の両立が可能です。
(4) 品質の一貫性
- 公差を正確に管理することで、製造される部品のばらつきを抑え、製品全体の品質が安定します。
3. 公差の具体例と基準
寸法公差
- 例: JIS B0401で定義される基準公差。
- H7/g6(はめあい公差): 軸と穴の嵌合精度を管理。
- ITグレード: IT01~IT16までの精度等級があり、数値が小さいほど高精度。
幾何公差
- 形状公差: 平面度、直線度、真円度など。
- 姿勢公差: 平行度、直角度、傾斜度など。
- 位置公差: 真位置度、同軸度など。
4. 適切な公差設定のポイント
- 設計意図を明確にする
- 部品の機能や組立条件を考慮し、公差を決定します。
- 製造可能性を考慮
- 使用する加工技術や機械の精度範囲を理解し、現実的な公差を設定します。
- 必要な箇所に厳しい公差を設定
- 重要な部品間接合部分には厳しい公差を適用し、それ以外には緩やかな公差を設定します。
- 規格に基づいた公差を活用
- JISやISOなどの規格に準拠した公差を使用することで、設計・製造間のコミュニケーションが容易になります。
5. 実務におけるメリット
- 製造工程でのトラブルを減少。
- 部品交換時の互換性を確保。
- 製品の信頼性と寿命を向上。
基本公差の理解は、設計と製造の架け橋となり、効率的で信頼性の高いものづくりを支える基盤となります。この知識を活用して、より優れた製品設計を実現しましょう。
通常の機械加工の公差
恒温加工室のない通常の機械加工限度は、ほぼ 6級公差となります。5級以上の公差を指定しても、加工できない場合が多いので注意が必要です。
通常の機械加工における公差の限界
機械加工において、部品の公差指定は設計と製造の間で非常に重要な役割を果たします。ただし、加工環境や設備の制約によって達成可能な公差には限界があるため、設計段階で適切な指定を行うことが求められます。
1. 恒温加工室のない通常加工の公差限度
- 適用可能な公差
通常の機械加工では、6級公差が加工限度として一般的です。この範囲内であれば、ほとんどの加工設備で問題なく対応できます。- 例: JIS B0401 に基づく6級公差(H6, g6など)は、日常的な加工条件で達成可能な範囲。
- 5級以上の公差について
恒温加工室や高精度設備がない場合、5級以上の厳しい公差(H5, g5など)の達成は非常に難しく、加工精度が保証されない場合が多いです。そのため、これらの公差を指定する際には、設備や環境条件を考慮する必要があります。
2. 高精度公差指定時の注意点
- 加工環境の影響
- 温度変化や湿度などの環境条件が寸法精度に直接影響を与えます。
- 恒温加工室がない場合、材料の熱膨張や加工機械の変動により、厳しい公差を達成することが困難です。
- 設備と技術の制約
- 通常の加工機械では、工具や機械自体の精度が限られているため、5級以上の高精度公差を達成するには特殊な設備(研削盤、高精度CNC機械など)が必要です。
- コストと納期への影響
- 高精度公差を求めると加工時間が増加し、コストが大幅に上昇します。これにより納期にも影響が出る可能性があります。
3. 設計段階での推奨事項
- 必要な精度を明確化
- 部品の機能や用途に基づき、過剰な精度要求を避ける。
- 加工可能な公差を確認
- 製造現場と連携し、加工可能な公差範囲を確認して指定する。
- 6級公差を基準にする
- 一般的な機械加工では、まず6級公差を基準とし、特に重要な部分のみ厳しい公差を指定する。
4. 実務での留意点
- 公差指定が現実的でない場合、製造工程でのトラブルや部品の不適合が発生するリスクがあります。
- 設備投資や加工環境の整備が必要な場合、製造コストが大幅に増加することを考慮してください。
恒温加工室のない環境では、6級公差を目安とした設計が合理的であり、過剰な公差指定を避けることが、効率的で信頼性の高い製造を実現するための重要なポイントです。
一般的な加工公差
一般的な加工公差は、7級以下を推奨します。6級以上の公差はなるべく指定しない方が良いです。等級を下げることで、加工時間の短縮とコストダウンが期待できます。例えば、以下のようになります:
- 780 (6級) – 0.10 ~ – 0.15
- 780 (7級) – 0.10 ~ – 0.18
一般的な加工公差の推奨基準と効率的な設定について
機械加工において、公差の設定は製造の精度、コスト、および効率に大きく影響を与えます。過度に厳しい公差は製造工程を複雑にし、時間やコストを増加させるため、設計時に適切な公差を指定することが重要です。
1. 推奨される加工公差の等級
- 一般的な加工では、7級以下の公差を推奨します。
- 6級以上の厳しい公差は、加工精度が要求される特定の用途を除き、なるべく指定を避けたほうが良いとされています。
2. 等級を下げるメリット
- 加工時間の短縮
- 厳しい公差設定には繊細な加工や追加工程が必要となり、時間が増加します。等級を下げることで、加工スピードを向上できます。
- コストダウン
- 加工精度が緩やかになることで、特殊工具や高精度設備を使用する必要がなくなり、加工コストを削減できます。
3. 公差の具体例
- 以下は、同じ寸法「780」を指定した場合の6級と7級の公差の例です:
等級 | 寸法範囲 | 公差値 |
---|---|---|
6級 | 780 | -0.10 ~ -0.15 |
7級 | 780 | -0.10 ~ -0.18 |
- 比較結果:
- 6級(-0.10~-0.15)に比べて、7級(-0.10~-0.18)の方が許容範囲が広いため、加工が容易で時間とコストの削減が期待できます。
4. 公差設定時のポイント
- 必要最低限の精度を指定
- 部品の機能や組立条件に応じて、過剰な公差指定を避けます。
- 重要箇所を優先
- 高精度が必要な箇所のみ厳しい公差を設定し、他の箇所は緩やかな等級に設定します。
- 製造現場との連携
- 現場の加工設備や技術に応じた公差を選定し、製造の現実性を確認します。
5. 注意事項
- 高精度な公差(6級以上)を指定する場合は、製造現場での加工能力やコスト増加を事前に考慮する必要があります。
- 公差の選定が適切でない場合、加工不良や納期遅延の原因となることがあります。
一般的には、7級以下の公差を基本とする設計が合理的であり、コストと性能のバランスを最適化するための重要なステップです。これにより、製造工程全体の効率化と信頼性向上が期待できます。
幾何公差の加工限度
幾何公差の加工限度は、 6級相当です。公差値の寸法範囲を細かく見る場合は、この表の 6級公差範囲を指定します。5級以上の公差を指定しても、加工できない場合が多いです。
例えば、基準寸法 230 ⊥ 0.01 A は ⊥ 0.03 A 6級(一般加工限度)となります。
幾何公差の加工限度と設定基準について
幾何公差は、部品の形状や位置の精度を保証するための重要な指標です。ただし、加工環境や設備の制約により、達成可能な公差値には限度があります。そのため、設計時には適切な公差範囲を指定することが求められます。
1. 幾何公差の加工限度
- 加工可能な等級
一般的な加工設備では、幾何公差の加工限度は6級相当が基準となります。これ以上厳しい公差(5級以上)を指定すると、加工が困難または不可能になる場合が多いため注意が必要です。 - 寸法範囲の指定
幾何公差の寸法範囲を細かく確認したい場合は、6級公差範囲に基づいた指定を行うことで、現実的かつ効率的な加工が可能となります。
2. 公差指定の注意点
- 5級以上の公差について
- 高精度な公差(5級以上)は特殊な加工設備や恒温加工室が必要な場合が多く、一般的な加工条件では対応が難しいことがあります。
- これらの公差を指定する場合は、製造現場との事前調整が不可欠です。
- 6級公差の活用
- 6級公差は、一般的な加工環境で十分に達成可能な範囲です。過剰な精度を要求せず、適切な範囲で設計することで、加工効率とコストのバランスを保つことができます。
3. 推奨事項
- 幾何公差の指定基準を明確化
必要な機能や性能に応じて、幾何公差の指定を慎重に行います。特に、形状や位置の精度が重要な箇所には厳しい公差を、非重要箇所には緩やかな公差を適用します。 - 加工設備に適した等級を選定
設計段階で、製造可能な公差範囲を確認し、6級公差を基準として設計を進めることが合理的です。 - コストと性能のバランスを考慮
高精度な公差は製造コストを増加させるため、性能に直接関与しない部分では過剰な精度を避けることで、全体のコストダウンが期待できます。
4. 具体例
公差等級 | 達成可能な寸法範囲 | 加工難易度 |
---|---|---|
6級 | 一般的な加工環境で達成可能 | 標準的 |
5級以上 | 特殊な加工条件が必要 | 困難 |
6級公差を基準とした幾何公差の設定は、製造現場での実現性を高め、設計と加工の整合性を確保するために最適です。過剰な公差指定を避け、合理的な設計を心がけることで、効率的かつコスト効果の高い製造プロセスが実現します。
ピッチ寸法公差の加工限度
ピッチ寸法公差の加工限度も6級相当です。
例:
- 呼び長さ 100mm の場合 6級公差 0.022 ±0.01
- 呼び長さ 700mm の場合 6級公差 0.050 ±0.03
- ピッチ寸法公差の加工限度と設定基準
機械加工において、ピッチ寸法公差は部品の精度や機能に直接影響する重要な要素です。設計時には、加工可能な公差範囲を理解し、適切な等級を指定することが求められます。
1. ピッチ寸法公差の加工限度
加工可能な等級
一般的な加工環境では、ピッチ寸法公差の加工限度は6級相当が基準となります。これ以上の高精度(5級以上)を指定すると、加工が困難になり、コストや時間が増加する可能性があります。
6級公差の例
呼び長さごとの6級公差の例を以下に示します:
呼び長さ
6級公差
公差範囲
100mm
0.022
±0.01
700mm
0.050
±0.03
2. 公差設定時のポイント
加工環境の限界を考慮
6級公差は、通常の加工設備で達成可能な範囲です。過剰な精度を要求せず、実現可能な公差を指定することが重要です。
公差範囲の調整
長さが短い場合(例:100mm)はより厳密な公差が適用可能ですが、長さが増すにつれて公差範囲が広がることを考慮します。
5級以上の公差指定の注意
高精度な公差(5級以上)を指定すると、加工時間が延びるだけでなく、特殊な設備や技術が必要となり、コストが大幅に増加する可能性があります。
3. 推奨事項
設計段階での現実的な公差設定
必要な機能に応じて、6級公差を基準とすることで、加工可能性を高め、製造コストを抑えることができます。
呼び長さに応じた公差の調整
短い部品にはより厳密な公差を設定し、大型部品や長い部品には緩やかな公差を適用することで、加工効率を向上させます。
製造現場との調整
設計段階で製造現場の能力を確認し、無理のない公差設定を行うことで、製造トラブルを回避します。
4. 注意事項
公差が厳しすぎると、加工不良率やコストが増加するリスクがあります。
長さが大きくなるほど寸法誤差が蓄積しやすいため、適切な基準を選択することが重要です。
硬質クロームメッキ後のバフ加工限度
硬質クロームメッキ後、バフ加工の加工限度は公差 6級にメッキ厚さのバラツキ ±0.005 (直径で0.020)をプラスします。
- 長さ 1m以内 公差7級
- 長さ 2m以内 公差8級
- 長さ 2m以上 公差9級
硬質クロームメッキ後のバフ加工における加工限度と公差設定
硬質クロームメッキ後のバフ加工では、メッキ厚さのばらつきや部品の長さによって、達成可能な公差が異なります。設計時には、これらの加工条件を考慮し、現実的な公差を指定することが重要です。
1. 加工限度と公差の基準
- 基本公差
硬質クロームメッキ後のバフ加工では、6級公差が基準となります。 - メッキ厚さのばらつきの影響
メッキの厚さには**±0.005mmのばらつきがあり、これを直径で考慮すると、±0.020mm**が追加されます。
2. 長さに応じた公差設定
部品の長さに応じて公差等級が調整されます。以下の基準を参考に公差を設定します:
部品の長さ | 基準公差 | 実際の公差範囲(メッキばらつき含む) |
---|---|---|
1m以内 | 公差7級 | 6級公差に ±0.005mm のばらつきを加味 |
2m以内 | 公差8級 | 7級公差にさらに長さ分の余裕を追加 |
2m以上 | 公差9級 | 8級公差にさらに広い許容範囲を設定 |
3. 設計時の留意点
- メッキばらつきの考慮
- 硬質クロームメッキ後の加工では、メッキ厚さのばらつきが加工精度に影響を与えるため、設計公差にこれを考慮する必要があります。
- 長さによる公差の変化
- 部品の長さが長くなるほど、加工誤差やメッキばらつきの影響が大きくなるため、等級を下げて許容範囲を広げる設計が適切です。
- 現実的な公差設定
- 公差等級を厳しく指定しすぎると、加工困難やコスト増加を招くため、加工可能な範囲内で設計することが重要です。
4. 推奨事項
- メッキ厚さのばらつきを事前に把握し、それに応じた適切な公差を指定します。
- 部品の長さに基づいて、7級~9級の公差範囲を使用し、加工現場での実現性を確保します。
- 製造工程での確認を徹底し、設計と加工条件の間に齟齬がないよう調整します。
硬質クロームメッキ後のバフ加工では、メッキ厚さのばらつきと部品の長さを考慮した現実的な公差設定が不可欠です。これにより、加工効率と製品品質の両立が可能になります。
ガス窒化及びタフナイト処理後の最終研磨加工
ガス窒化及びタフナイト処理で最終研磨加工しない場合は、加工限度 公差6級に寸法バラツキをプラスした公差にします。
- 単純形状 公差 7級
- 複雑形状 公差 8級
ガス窒化およびタフナイト処理後の加工限度と公差設定
ガス窒化およびタフナイト処理は、部品表面の硬度と耐摩耗性を向上させる熱処理技術です。処理後に最終研磨加工を行わない場合は、寸法ばらつきを考慮した現実的な公差設定が求められます。
1. 加工限度と公差の基準
- 基本公差
処理後の加工限度は、公差6級を基準とし、寸法ばらつきを加味した公差範囲を設定します。 - 寸法ばらつきの影響
処理による寸法の変化や表面硬化層のばらつきを考慮する必要があります。このばらつきを追加した範囲で公差を指定することが推奨されます。
2. 形状に応じた公差設定
- 単純形状の場合
- 公差 7級が適用されます。
- 例: 円柱形や平面形状など、加工が比較的容易でばらつきが少ない形状。
- 複雑形状の場合
- 公差 8級が適用されます。
- 例: 曲面や複数の細部形状が組み合わさる部品、寸法ばらつきが大きくなりやすい形状。
3. 設計時の留意点
- 処理後の寸法変化を考慮
- ガス窒化やタフナイト処理では、表面硬化層が形成されることで寸法が微妙に変化する可能性があります。この変化を考慮して公差を設定します。
- 最終研磨がない場合の影響
- 最終研磨を行わない場合、表面仕上げのばらつきがそのまま寸法精度に影響するため、適切な等級を選定することが重要です。
- 形状の複雑さに応じた柔軟な設定
- 単純形状には厳しめの公差を、複雑形状には余裕のある公差を適用することで、加工の実現性を高めます。
4. 推奨事項
- 製造現場との連携
設計段階で製造現場と密に連携し、ガス窒化やタフナイト処理による寸法変化や加工限界を確認します。 - 公差の適切な選定
形状の特性に応じて、7級または8級の公差を選択し、過剰な精度要求を避けます。 - コストと性能のバランス
必要な箇所に厳しい公差を設定し、それ以外は緩やかな公差を適用することで、加工コストと製品性能の最適化を図ります。
ガス窒化およびタフナイト処理後の加工では、形状や寸法ばらつきを考慮した現実的な公差設定が不可欠です。公差7級および8級を基準にした柔軟な設計を行うことで、効率的な加工と高品質な製品の実現が可能となります。
注意点
通常の機械加工(幾何公差・ピッチ寸法公差含む)の限度は、ほぼ6級公差です。5級以上の公差を指定する場合は、恒温室での加工等、加工できない場合が多いので注意必要です。
加工限度表
等級 | IT 5 | IT 6 | IT 7 | IT 8 | IT 9 | 幾何公差 | ピッチ寸法公差 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
~6 | 6 | 9 | 15 | 22 | 36 | 0.01 | ±0.01 |
10~18 | 8 | 11 | 18 | 27 | 43 | ||
18~30 | 9 | 13 | 21 | 33 | 52 | ||
30~50 | 11 | 16 | 25 | 39 | 62 | 0.02 | |
50~80 | 13 | 19 | 30 | 46 | 74 | ||
80~120 | 15 | 22 | 35 | 54 | 87 | ||
120~180 | 18 | 25 | 40 | 63 | 100 | 0.03 | ±0.02 |
180~250 | 20 | 29 | 46 | 72 | 115 | ||
250~315 | 23 | 32 | 52 | 81 | 130 | ||
315~400 | 25 | 36 | 57 | 89 | 140 | 0.05 | ±0.03 |
400~500 | 27 | 40 | 63 | 97 | 155 | ||
500~600 | – | 44 | 70 | 110 | 175 | ||
630~800 | – | 50 | 80 | 125 | 200 | ||
800~1000 | – | 56 | 90 | 140 | 230 | 0.07 | ±0.04 |
1000~1250 | – | 66 | 105 | 165 | 260 | ||
1250~1600 | – | 78 | 125 | 195 | 310 | 0.11 | ±0.05 |
1600~2000 | – | 92 | 150 | 230 | 370 | ||
2000~2500 | – | 110 | 175 | 280 | 440 | 0.13 | ±0.07 |
2500~3150 | – | 135 | 210 | 330 | 540 |
この表を参考にして、適切な公差を設定し、効率的でコスト効果の高い機械加工を実現しましょう。
まとめ
公差は機械加工の品質とコストを大きく左右する重要な要素です。製品の用途や要求仕様を考慮し、適切な公差を設定することで、効率的かつ高品質な製造が可能になります。また、公差の選定には加工技術や測定技術の知識も必要です。最終的には、設計者と加工技術者の連携が成功の鍵となります。
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