機械の設計において、繰返し荷重に対する許容応力の設定は、部品の信頼性や耐久性を確保する上で極めて重要です。特に、繰返し回数が少ない場合には、疲労強度やその倍率を考慮した設計が求められます。本記事では、一般的な許容応力の設定方法や疲労線図(SN曲線)を基にした疲労強度の影響について詳しく解説します。適切な設計を行うための目安や具体例も取り上げ、効率的かつ安全な設計を実現するためのポイントを紹介します。
繰返し回数が少ない機械の許容応力は、繰返し回数に応じて設定される必要があります。特に、安全性を確保しつつ、コストパフォーマンスの観点からも効率的な設計が求められます。以下に、許容応力の設定方法と考え方を詳しく解説します。
1. 一般的な許容応力設定
機械の繰返し許容応力とその計算方法
機械設計では、部品が長期間にわたり繰り返し荷重に耐えられるように設計する必要があります。繰返し許容応力は、部品が繰り返し回数が10⁶~10⁷回(100~1000万回)以上にも耐えるために設定される重要な設計パラメータです。
1. 繰返し許容応力の設定基準
- 耐久性の目安
繰返し許容応力は、材料が繰り返し荷重により破損(疲労破壊)することを防ぐための基準値です。 - 長寿命の実現
設計寿命を満たすため、繰り返し回数が10⁶~10⁷回以上でも破壊が発生しない応力範囲を設定します。
2. 許容応力の計算に必要な要素
- 切欠係数(Kt)
- 部品の形状や表面の加工状態により、応力集中が発生します。切欠係数は、この応力集中の影響を評価するための係数です。
- 実際には、部品形状や製造プロセスからおおよその値を推定します。
- 疲労強度(Sf)
- 疲労強度は、特定の繰り返し回数において材料が破壊しない最大の応力です。
- 文献や技術資料から推定値を取得し、設計に反映します。
3. 許容応力の概略計算
- 正確な数値を得ることが難しいため、文献や技術資料をもとに概略的な計算を行います。
- 計算式の例:σ許容=SfKt\sigma_{\text{許容}} = \frac{Sf}{Kt}σ許容=KtSf
- σ許容\sigma_{\text{許容}}σ許容: 繰返し許容応力
- SfSfSf: 疲労強度
- KtKtKt: 切欠係数
- 疲労強度や切欠係数が明確でない場合は、過去の類似設計や実験データを参照して値を設定します。
4. 実務における推奨事項
- 資料の活用
- JIS規格や材料メーカーのデータ、専門書籍や技術論文から、疲労強度や切欠係数の参考値を取得します。
- 例:材料のS-N曲線(応力-繰返し回数曲線)を用いて疲労特性を評価。
- 安全係数の設定
- 疲労強度や切欠係数に不確実性がある場合、安全係数を十分に確保して設計します。
- 試作と評価
- 計算値だけでなく、試作品を用いた疲労試験を実施し、設計値を検証します。
5. 注意点
- 疲労は環境条件(温度、湿度、腐食など)や製造条件(表面粗さ、残留応力など)によって大きく影響を受けるため、これらの影響を考慮した設計が必要です。
- 概略計算に頼る場合は、設計の余裕を十分に取ることでリスクを軽減します。
2. 疲労強度の影響
疲労強度は、繰返し回数が106~107回(100~1000万回)以上の場合の数値を基準としています。繰返し回数が少ない場合には、疲労線図(SN曲線)から概算値を求めます。
多くの疲労線図(SN曲線)より、104回の疲労強度は106~107回の疲労強度の約1.35倍程度であることがわかっています。
例: S45C 焼入焼戻し 両振り引張圧縮疲労強度の例
- 106~107回:23~36 kgf/cm²
- 105回:30~43.8 kgf/mm²
- 104回:35.5~49.8 kgf/mm²
3. 疲労強度倍率の設定
疲労線図(SN曲線)を基に、繰返し回数ごとの疲労強度倍率を設定します。
S45C 焼入焼戻し 両振り引張圧縮疲労強度倍率
繰返し回数 | 疲労強度範囲 | 疲労強度倍率(下限) |
---|---|---|
104回 | 1.38~1.54倍 | 約1.35倍 |
105回 | 1.22~1.30倍 | 約1.25倍 |
106~107回 | 1.0とする | 1.0とする(一般許容応力) |
S45C 焼入焼戻し 両振りねじり疲労強度倍率
繰返し回数 | 疲労強度範囲 | 疲労強度倍率(下限) |
---|---|---|
104回 | 1.32~1.49倍 | 約1.35倍 |
105回 | 1.23~1.37倍 | 約1.25倍 |
106~107回 | 1.0とする | 1.0とする(一般許容応力) |
ねずみ鋳鉄 回転曲げ疲労強度倍率
繰返し回数 | 疲労強度範囲 | 疲労強度倍率(下限) |
---|---|---|
104回 | 1.53~1.90倍 | 約1.55倍 |
105回 | 1.33~1.43倍 | 約1.35倍 |
106~107回 | 1.0とする | 1.0とする(一般許容応力) |
4. 鋼の疲労強度と荷重の種類
鋼の疲労強度は、疲労線図に基づき、繰返し回数が少ない場合に高くなります。荷重の種類(引張圧縮、回転曲げ、両振りねじり)による疲労強度のアップ率は若干異なりますが、ほぼ同一と考えられます。
5. 許容応力倍率の目安
繰返し回数が少ない場合の許容応力(疲労強度)倍率は、次のように設定します。
繰返し回数 | 許容応力倍率 |
---|---|
104回 | 約1.25倍 |
105回 | 約1.2倍 |
106~107回 | 1.0とする(一般許容応力) |
- 繰返し回数が105回以内の場合の許容応力は、一般許容応力の1.2倍程度高く設定しても良いですが、過大圧力などピーク応力の可能性を十分に調査する必要があります。
- 繰返し回数が105回を大きく超える場合は、一般許容応力で設計する方が良いです。
ボルトの強度計算においての直径と断面積の考え方および計算方法
ボルトの強度計算において、直径と断面積の考え方および計算方法は非常に重要です。以下では、ボルトの強度計算に使用される直径と断面積について詳しく説明します。
1. 有効断面積
有効断面積は、ねじの有効径と谷底径の中間径における断面積であり、実際の破断面積に最も近いと言われています。ソケットボルトの強度計算によく使用されます。
2. ねじ外径からねじピッチをマイナスした断面積
この断面積は、強度断面積と呼ばれ、有効断面積と谷径断面積のほぼ中間値です。計算を簡素化した方法であり、タイバーの強度計算によく使用されます。有効断面積に比べて小さく、より安全な考え方です。
3. 谷径断面積
谷径断面積は、ねじの谷径における断面積であり、上記の2つの方法よりも断面積が小さく、応力が高くなります。このため、より安全な考え方ですが、あまり使用されません。
4. 谷底径断面積
谷底径断面積は、ねじの谷底径における断面積で、4種類の中で最も断面積が小さく、応力が一番高くなります。より安全な考え方ですが、あまり使用されません。
これらの計算方法は、ボルトの強度計算において適切な直径と断面積を選定するための基準となります。適切な計算を行うことで、ボルトの強度を確保し、機械構造の安全性を向上させることができます。
ボルトの強度計算に使用する直径と断面積の考え方および計算方法について、適切に理解し使用することは、機械設計において非常に重要です。これにより、強度と安全性を確保することができます。
まとめ
繰返し回数に応じた許容応力の設定は、機械部品の信頼性と安全性を高めるために欠かせないプロセスです。特に繰返し回数が少ない場合には、疲労線図や許容応力倍率を参考に、適切な設計基準を設定することが重要です。本記事で紹介した考え方やデータを活用し、過大応力やピーク応力を十分に考慮した設計を行うことで、機械部品の長期的な性能向上に役立ててください。また、設計段階から疲労寿命を見据えた予防的なアプローチを取り入れることも大切です。
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